つきの徒然

アセクシャルな人間の日々の雑記

忘れられない女はかわいい

別れた恋人のことを忘れられない人はかわいい。
それはそれはかわいい。かわいすぎてぶっ壊したくなるくらいかわいい。
私の目の前で泣いてほしい。それだけの思いを残した過去の恋人を思って泣いてほしい。
私が同じ空間にいるのに、私が見てるのに、それでも私のことを忘れてるんじゃないかって思うくらい泣いてほしい。
昔の恋人を思って、過去にすがって、感情をあらわにしてほしい。

 

私はかわいくない。もう、いろんなことを忘れた。
新しい家で暮らし始めたこの1ヶ月で、あんなに濃かったはずの2年半を忘れていった。
正直な話、まず声が思い出せない。顔はかろうじてなんとか、ギリギリ、靄がかかってる感じで思い出せる。着ていた服は覚えている。細かいことは思い出せないけど、スポーティーな黄色のジャンパーを着ていたことは覚えている。夏服は死んだ。

でもまあ、忘れても全然生きていける。余裕で。

 

そういえば、ここ最近立て続けに連絡がきた。
あちらのプライバシーもあるからなんの連絡だったかは伏せるけど、へえそうなんだ、くらいしか思わなかった。思えなかった。あ、また来てる、くらいの感じ。
2年半も一緒にいた相手への感情とは思えないくらい、波風が立たない。

 

凪。

 

友達になれないんだと思う。
別れた直後のnoteでは友達になれたら、って書いたし、彼ともそんな話をしたような気もするのだけれど、私は友達だった期間がない人間とは、それまでとは別に友達になるプロセスを踏まないといけないタイプの人間なんだな、と初めて知った。
あんなに「この人のためならなんでもできる」なんて思っていた時期もあったのに。

冷たすぎるだろ。

かわいくない。

 

この前2年半の私を知っている人に「あの時に書いていた気持ちは本当だったんですか」と聞かれた。
あれは本当。でも「魔法にかかってるみたいなものでしたね」とも言った。

結局、私は愛のない人間なのだ。付き合う前も、今も。
恋だの愛だのに通じる感情の全てがない。やっぱりね。
あの当時、私がその頃の彼女と別れたらいいのにと思うまでに彼を欲していたのは、まあ、要は寂しかったからだ。誰かに支えてほしかった。救われたかった。私の味方が欲しかった。
そして実際に救ってもらったから、私もちゃんと彼を支えなきゃと思った。
だからこそ、彼ももう一人で立てるようになるかなと思った瞬間、それまで平気だったことがダメになった。
これまでの私はどこに行ったんだろう、と自分が一番戸惑ったが、まあ、これこそが『これまでの私』だったんだな、と気づいてしまった。これまでの私は、一人でも楽しめて、仕事を好きでがんばれる私。むしろこの期間がなんだか特別な私だったのだと。

別に演じてなんかいない。あの時の私は愛情があったし、別れるとなった時も情はあった。
でも1ヶ月顔も見ず、思い出しもせず、考えもせずにいると、私の体からものすごい勢いで彼のための成分が染み出していって、昨日だか一昨日だかも忘れたけど今週のどこかで、ああ空っぽだわ、と思った。
私ってこんなに薄情な人間なんだなぁ、とも思った。

 

ついさっき、クリスマス前に恋人と別れた女の子が「まだ全然忘れられない」「忘れるためにいっぱい予定を入れて考える時間を無くしてる」とツイートしているのを見た。
かわいい。かわいすぎやしないか。生きにくくないか。むしろ人はみんなそうなのか。それがみんなの生きるってことなのか。そんなことをたくさん経験してみんな大きくなっていくのか。かわいいなぁ、みんな。大好きだよ、そういう人間みたいなところ。

かわいいなと思った。バカにしている意味合いではなく、純粋に、こんなに思われる人はしあわせだろうな、と。元恋人冥利に尽きるだろうな、と。
まあ私は誰かにそこまで思われたくないけど。人の恋愛的な好意は気持ちが悪いから。

そこまでして思い出したくなくても忘れられない人もいるのに、私はといったらとんでもないことにこの2年半のこともかなり忘れている。
写真は全部消した。そもそも友達との写真だって滅多に撮らないのに、いらないでしょう。もらったものも結構捨ててきたから、ああこれそういえばあの時の、みたいなものはほぼない。この家の中に思い出させるものが何もない。
住んでいる駅はひと駅しか変わらないからひょっとしたら電車で一緒になることもあるのかもしれないけど、毎朝毎晩そんなこと考えながら電車に乗らない。

本当に記憶に引っかかることがないのだ。さすがに引く。

 

元気になった私は一人でも楽しく生きていけているので、今のところ「頻繁にご飯を食べに行ってくれてぜっっっっっっっっっっっったいに性欲を見せてこない最高の添い寝友達がいたらいいな」くらいしか思ってない。
人と一緒にご飯を食べるのと寝るのができればそれでいい。それしか好きじゃない。

幸い、今はご飯を食べに行ってくれる知り合いが何人かいて、全然それで私は元気に過ごせている。その人たちがみんな誰の前でも男性だから絶対に一緒には眠れないけど。
性別が男性で唯一性欲を感じずにいられる人間は一人しか知らないので、その人が上京してきてくれたらいいのに、とここ最近は思っている。

 

忘れられない、とか言って夜な夜な泣いてみたかった。
消せない写真をふとした瞬間に遡って見つめてみたかった。

その感情に興味がある。

 

生まれ変わったらいつか、忘れられない女になってみたい。