さよなら禁煙 (思いがけず長編)
とうとう買ってしまった。Ploom TECHを。
今の会社に入ってからの二年間で、寝る前に二本吸わなきゃ寝られないところとか、二箱持ちがデフォルトなことろとか、チェーンスモーカーなところとか、そういった全部をやめていけるように頑張っていた。そのおかげで今ではもう三ヶ月か半年に一度吸いたくなるくらいで、ほぼ卒煙も近かった。まあ、ここからが一番遠いと思うのだけど。
事の発端は二週間前、出社前に寄ったゼブンイレブン。
ゼブンイレブンのおにぎりは梅こんぶが好きだけれど、あれはひとつ食べてしまうとふたつみっつと止まらなくなるのでもうずっと買ってない。人の舌をとりこにするヤバい成分でも入ってるんじゃないかな。
そんなことを考えながらチアシード入りのアセロラドリンクを持ってレジ待ちの列に並んだとき、レジ前に作られたキラキラと光る箱たちのブースが見えた。ほんとうにキラキラしてた。
パッケージは別にキラッくらいなのだけれど、《ストロベリーマンゴー メンソール》という文字が、最近の夜景やイルミネーションばりに、それはもうとてつもなくキラッキラして見えた。私の目には。運命。
ストロベリー、だいすき。マンゴー、だいすき。メンソール、超絶だいすき!!!!というような具合でこの瞬間に頭のネジが何本か緩んでしまった私は、まだ味も香りも知らないストロベリーマンゴー メンソールへの恋に落ちた。
「あなたのこと好きですよ」とは少しも思わせないことが得意な私は、ストロベリーマンゴー メンソールにもこの態度を貫いていた。二週間、ストロベリーマンゴー メンソールという言葉を発したのはツイート一回と家で恋人氏に一回。たぶん。(自覚している分なので、恋人氏に聞けばもう少し多いかもしれない)
それでも私の頭の中はストロベリーマンゴー メンソールのことでいっぱい。しんどい。あと半分残ってるアメスピの緑に少し罪悪感を抱きつつ、
「あ〜恋人がいるのに違う人のこと好きになっちゃう人の気持ちってこんな感じか〜」
と、完全に浮気を疑似体験した感覚だった。
しばらくそうやって悶々と過ごしていたのだけれど、先週の金曜日、もう想うだけでは我慢ができなかった私はPloom TECHを使ったことがある会社の上司にインタビューした。私は使用感を詳しく教えてほしかっただけなのに、ところがこの上司は私からダダ漏れの「ストロベリーマンゴー メンソールを吸いたい!!!」を察知してしまったらしく、クズ男よろしく
「じゃあ吸ってみてよ、それで俺にも感想教えて」
なんて言われてしまって、もう私のストロベリーマンゴー メンソールへの気持ちは大爆発。
私は基本的にチョロいので、こういうタイプの発言には大抵免疫がない。余裕で免疫をつけられるレベルで周りはクズだらけだったのだけれど、私が免疫をつけてこれなかった。
以上からお察しの通り、この日帰ってからの私の話はほぼ全部この上司の話でした。恋人氏はつまらなかったと思う。ごめんね。
そんなこんなでストロベリーマンゴー メンソールに恋してる私のために、恋人氏がおととい「東京駅にPloom TECHのショップがあって、試せるらしいよ」と調べて教えてくれた。なんて素敵な彼氏なんだ、最高。
でも確かその時の私はこの気持ちを暴走させたくなくて、「ふーん、そうなんだ」くらいにしか返さなかった気がする。返しが完全に童貞。もうちょっと話を膨らませられただろ、と反省している。
でも「俺も気になるから行ってみる?」と恋人氏は言ってくれて、「(絶対買うことはないだろうけどまあまあまあまあ見るくらいなら良かろうよ、試しに吸えるしね、まあそれくらいならいいんじゃないかな、上司にも試しに吸ってみたけどそれで満足でした〜って報告できるしね)行く!!!!」という流れでクリスマスデートが東京駅に決まった。
もうそこからは山を転がる雪玉の如し。
ショップに着いて恋人氏が店員さんに試し吸いをしたい旨を伝えると、順番に案内するから少し待ってくれと言われた。チョロいので、ほうほう、店員さんがひとつずつ教えてくれるのね、なんてやさしいお店なの、と心を掴まれるはずではないところでばっちり掴まれた。そのお店もストロベリーマンゴー メンソールが私のことを出迎えてくれて、私の頭も心もストロベリーマンゴー メンソールでいっぱい。おかげでPloom TECHのアクセサリを見て待っている間の記憶はそれほどない。
「お待たせしました」と声をかけられてめちゃめちゃお洒落なカウンターに座ると、かわいいお姉さんがPloom TECHの説明を軽くしてくれた。まったく覚えてない。
そしてお洒落な立方体のホルダーに刺さったPloom TECH本体と、8種類くらいのフレーバーの一覧を差し出され、お姉さんに「どれにされますか?」と聞かれた。たしか。
そんなのストロベリーマンゴー メンソールに決まってます!!!!!!と叫びたい気持ちを抑えて、まず、恋人氏がフレーバーを選ぶのを待った。一応慎ましい彼女でありたいという理想があるので、余程のことがない限りこういう場合は恋人氏の後に言うようにしている。
できているかは恋人氏のみぞ知る。たぶんできてないんだろうなぁ。
恋人氏が普通のたばこフレーバーを選んだ後に、少し考えて、「じゃあ、ストロベリーマンゴーで」とお願いした。もちろん考えたフリだけれど、そうでもしてないとわくわくでどこかに飛んでいってしまいそうだった。
そこから全部のフレーバーを試して、やっぱりメンソール最高〜!と言うような心地の中、何色にするかを決め、マウスピースをつけるか迷い、ケースを買うか迷い、一瞬我に返った。
「いやいやいやいや、待って待って普通に買う流れじゃん買うつもりじゃん。買うの?え??買うの??歯の治療の請求が10万円くるよ?来月お金ないよ?本当に買っちゃうの?せっかく禁煙できてるのに??本気??」と戸惑う私の天使。
「は?黒購入一択」と言い切る悪魔。
軍配は言わずもがな悪魔に上がった。もう天使なんかほんの一瞬、時間にしてどのくらいだろうね、よくわからないけどすぐ消えた。
恋人氏は本体は白を買って、最初に吸った普通のたばこフレーバーを選んでいた。私は黒の本体で和梨洋梨ミックスのメンソールを買った。
せーの、
「え!?ストロベリーマンゴー メンソールは!?」
解説します。
いつでも会える芸能人と滅多に会えない芸能人に会えた時にどっちの方がテンション上がりますか、それは滅多に会えない芸能人でしょう。
毎朝私を誘惑していたストロベリーマンゴー メンソール、この日はストロベリーマンゴー メンソールに会いにきたと言っても過言ではない。
でも私はそこで出会ってしまった...いつものコンビニにはなぜか置いていない、和梨洋梨ミックスのメンソールと。
もちろん恋い焦がれたストロベリーマンゴー メンソールもすてきだった。一吸いして、心がとろけた。ああ、これを私は知りたくてこの二週間ずっと胸が苦しかった。はあ、おいしい。そんな具合でデレデレだった。
お姉さんに「何か他のも吸ってみますか?」と聞かれて、メンソールだいすき勢の私は「そしたら、和梨洋梨のものを...」とまたメンソールを頼んだ。和梨と洋梨って香りに違いがあるのかな?と、ストロベリーマンゴー メンソールの時ほど興奮はせずとも少し楽しみにして、お姉さんがセットしてくれるのを待った。
一口、煙を肺に入れて、おや?意外と普通のメンソールだな?これならやっぱりストロベリーマンゴーくらいまで考えたあたりで鼻に梨の香りがふわっと抜けた。
ずぎゃーんってきた。
はい決定、もうこれです。これでした。今日までずっとストロベリーマンゴー メンソールに恋い焦がれてきたのに。浮気性にも程があるけど、これ。ストロベリーマンゴー メンソールにはいつでも会える。でもこのミックスグリーンクーラーにはまたしばらく会えない。会えないなら今この時を大事にしたい。
ごめんなさい、ストロベリーマンゴー メンソール。いつか絶対あなたのもとに戻ってくるから...
ということで、私の華麗なる浮気により和梨洋梨ミックス メンソールを購入することになった。家に帰ってから吸ったらやっぱり最高だったので、思い切って浮気してよかったと思うのだけれど。
今朝はいつものセブンイレブンには行けなかった。