月が綺麗だからなんだって話で

アセクシャルな人間の雑記

好きになり直したかった

どんな人にも可愛げがあるんじゃなかろうかと思う。時々そんなことも無視してぶち殺したい人間もいるが、私が許せない嫌いな元上司は可愛げのある人間だと思う。面白くはないけど。

 

今日、元上司とサシで飲んだ。3時間。私はサシなら取り繕わないと決めているので、そこそこ本音で話をしたと思う。本人の許せない部分に関しての話題は出さず(傷つけたり喧嘩になったりするので)、この人の仕事の人格ではなく「この人」として話ができることについて、ずっと話をした。人間と人間として、分かり合えなくても尊重する気持ちが自分の中に欲しくて。案外うまくいったのではないか。今私は「この人」のことは嫌いではない。好きかと聞かれると同族嫌悪な部分もあるのでそこまでだけれども、嫌う要素はそこまでなかった。

この人が自分のことを見つめない姿勢が私は大嫌いで、毎日鏡を置いて過ごせよとまで思っていたけれど、昨年末からずっと自分と向き合う訓練をしているらしい。お金を払って、授業を受けて、自分もその資格が取れるように頑張っていると言っていた。私はその話を聞いて、本人がそう思うに至った背景を想像して少し、「この人は私が思っているよりは心のある人間なのかな」と考えを改めようかと思っている最中である。残念ながら、すぐに考えを改められるほど、私の傷は浅くない。

不器用な人であるとは思う。ただ、その不器用さの自覚がなく、自分の機嫌でそれを振り回すので、周りにいる人間は全員負傷する。負傷しまくって私はこの人の仕事のやり方を受け入れられなくなってしまったし、マネージャー業をやるなと思うし、させている会社はもう不信感が募りまくっている。本人はそんな自分に気がついたのだろうか。今の行動は私の想像した通りの道筋を通ったことによるものなのだろうか。今日はどちらかというと私の話をたくさんしたので、そこの答えには辿り着けなかった。仮に辿り着けたとしても、同情することも許すこともないけれど。

今日は私のセラピーのつもりだった。許せない人を、死んでしまってもいいと思った人を、私はどうにかして好きになり直したかった。昔は好きだったのだ。その好きを消費して今の状態になってしまったわけだけれど、「この人」自身のことは嫌いじゃないのだからまた好きになれるんじゃないかと期待して、「ごはんに行きませんか」と声をかけた。

 

やっぱり私はこの人のことが好きなんだと実感した。

 

自滅されても平気だと感じるほどの強い悪意を持って、それを周囲に撒き散らし、仲間を集め、勝手に動いてもらって、最終的に役職から引き摺り下ろした。最悪辞めてほしかったし、この世からいなくなってもいいとまで思っていた。本人曰く「本当に辛い時期があった」らしい。私たちは紛れもなく、(いろんな要因が重なり合っただけかもしれないけれど)本人をこの数年間の中の一番のどん底まで突き落とした。私にとっても、私の人生で一番強烈な悪意だったと思う。だからこそ今本人のことを「かわいそうだ」と同情している人間たちを見ると、「お前の悪意はその程度か」「自分の悪意に責任を持て」と新たな怒りが湧くのだけれど。

そんな人でも、仕事におけるその人と「その人」を分離して見ると、案外私はまだ好きなままで、恨みの感情はこれっぽっちも浮かんでこなかった。仕事の人格もその人自身も繋がっているものだから、実際には切り離して考えられるものではないわけだけれど、そこの矛盾は無視して分離したい。分離したいと思う時点で、私には恨みと愛の両方が存在しているわけだ。私の文章を読んでいる人は私の愛の重さを知っていると思うが、やはりこの人に対しても私の中には愛している気持ちがあった。もちろん愛の種類も様々なので四天王や音に対しての愛とは違って、もっと自分に都合にいいものかもしれない。それでも私には、味方のいなかった時期をこの人に支えてもらった感謝や、他愛もない会話をした時間の楽しさ、お姉さんとして慕ったいた頃の親しみ、そういった明るい感情が拭いきれないシミとして心に残っているのだ。どんなに憎くて、苦しんでほしくて、存在自体をどうにかしてしまいたいと思っても、その裏側にはそれと同じだけの好きな気持ちがあったのは間違いない。だからこそ死ぬほど恨んだわけで。まさしく愛憎紙一重

それがわかった今日、この人のことを好きになり直したいと思っている自分のことは認めることができたけれど、この憎しみが萎む日はおそらくまだ遠いこともわかった。いくら分離しようと思っても、私が日々相手にするのは仕事の人格のその人であるから、許せないことは相変わらずそのままだ。可愛げを愛する気持ちなんてこれっぽっちも顔を出さない。仕事の人格の「この人」のことは常時どうでもいい。ただ憎い。

 

全部を忘れて、あんなに好きだった人のことをまた好きになれたらどんなに幸せだろう。

どうでもいい人のことをまた好きになれるほど、私の悪意は弱くなかった。会社の私は会社のこの人の可愛げを愛せない。

二度と部下になんてなりたくないし、二度と部下を持たないでくれ。